「たしかにバカなところはあるが、この程度のバカならまだいいか」という惜しい結論をたすバカにはすこし救いがある。
ほんとうのバカは「おれってバカかな」という疑問がまったく浮かばず、したがってこういうバカは治る契機が一生ない。
つねに口先だけである。
バカは自分から1ミリも外にでない自分は世間に100メートルもしゃしゃりでているくせに、どんなところに行こうと、まただれと接触しようとも、自分からは1ミリもでてないのである。
つまり自分のことしか頭にないのである。
したがって、その自分に1ミリも入り込ませない。
さしずめ電車のなかで、周囲にわざわざ聞かせるために大声で携帯をかけているバカがその典型である、といえようか。
「もうキミは明日から生きないでいいから、そのまま家に帰って首吊って死になさい」といいたい。
バカはいやらしいこの手のバカには学歴バカが多い。
バカのなかでは手が込んでいる高級バカである。
口では民主的なことをいう。
もっともらしい立派なこともいう。
学歴なんか意味ないよ、いまどき男だ女だなんて、などと平等主義者のごとくふるまう。
外国人労働者をもっと入国許可して日本人は混血が進めばいいんだ、などと無責任なことをいう。
そのくせ自分の家の隣には金輪際来てもらいたくないのである。
バカは横に倣うだけしの「赤信号みんなで渡ればこわくない」って、いかにも日本人が喜びそうで、バカな標語だな。
つねに横一線。
前を走っているヤツを「ご苦労だねえ」と砂がし、遅れているヤツにたいしては優越感をもって眺める。
自分ひとりではなにもできなくておなじバカを味方につけようとするが、ほかのバカに見限られると、そいつらをバカ呼ばわりしだす。
バカだねえ、おまえだけなんだよ、いつまでもバカにとどまっているのは。
「バカ」の本を読んでみる。
一種の市場調査である。
めんどうくさい人は、第三章に飛んでもらってかまわない。
ふつう、「バカ」本というと、内容の愚劣な本という意味である。
しかしここでは単純に、タイトルに「バカ」という言葉が使われている本、という意味で使うが、それにしても言葉が言葉だから、その種の本はそう多くないだろうと思っていた。
ところが、想像していた以上にあるのである。
いくつか紹介してみよう。
清水修『アホバカOL生態図鑑』(講談社)、松本修『全国アホーバカ分布考』(新潮社)、中村うさぎ『消費バカー代』(文語春秋。
これはたぶん『空手バカー代』のもじり)、安原穎『本47を読むバカ読まぬバカ』(ただし、安原以外の本をわたしは読んでいない)。
伊吹卓という人がいる。
どういう人物かは知らないが、『「人格」は「バカ」になれば磨かれる』、『「バカ」になれる人ほど「人望」がある』、『「バカ」になれる人ほど「人の心」がわかる』というように(まだまだある)、バカの効用を説く「バカ」本一筋の人もいたりするのである(よほど売れているのか。
わたしは一冊も読んでいない)。
竹内久美子の『そんなバカな!』(文春文庫)は「バカ」とはあってもちょっと意味合いがちがうが、ほかにもアントニオ猪木の詩集『馬鹿になれ』(角川書店)、北見けんいち『釣りバカ日誌』示学館)などがある。
「バカ」本市場はけっこう賑わっているのだ。
しかし、やはり一般的には、呉智英『バカにつける薬』と小谷野敦『バカのための読書術』(ちくま新書)が、知名度からいっても、また内容の充実度からいっても、「バカ」本の頂点だといっていいだろう。
これに立花隆の『東大生はバカになったか』を加えてもいい。
ここでは右の呉、小谷野のほかに、吉野敬介『やっぱりおまえはバカじゃない』示学館文庫)、酒井冬雪『バカーゲット』、田ロランディ『馬鹿な男ほど愛おしい』、高橋春男『このバカを見よ!』(飛鳥新社。
高橋にはほかに編著『素人バカ自慢』、勝谷誠彦『バカとの闘い』、そしてエラスムス『痴愚神礼讃』を読んでみることにする。
あらかじめお断りしておくが、これらの本は「バカ」本ではあっても、「バカ」論ではない。
バカを全編で扱った真正「バカ」本は、吉野と高橋と勝谷とエラスムスのものだけである。
なかでもその最高峰は『痴愚神礼讃』である。
これはまことに「バカ」論の名著というに相応しい。
キングーオブーバカブックスである。
では次点はどれか。
残りのどれでもない。
わたしの主観的な評価によれば、本書『まれに見るバカ』である。
本書は我が邦初の「バカ」論の古典となるであろう(だれも羨ましくないか)。
この本には感動した。
著者は中学・高校時代を徹底的に不良(元暴走族特攻隊長)でとおし、大学受験四ヶ月前の偏差値は英語、国語、社会、三教科あわせて80にも満たなかったという極めっきの劣等生である。
「この偏差値は受験の世界の常識からいったら、人間様のものじゃない。
イヌ、サル同然という数字なのだ」。
その極めっきの不良が、副題に「偏差値25からの超大学受験術」とあるように、一念発起して受験をめざし、超人的な努力の末、見事国学院大学に合格する、という体験談である。
一生懸命やらないで大学にはいったことを自慢するヤツはバカだ。
こんなバカにだけは50なってほしくない。
そんなのはみっともないじゃないか。
おれは現役だ、おれは一浪だ、二浪だ、そんなこと言うヤツもバカだ。
本気で取り組んだ時間なら、それが一年だろうと二年だろうと関係ない。
(『やっぱりおまえはバカじゃない』)ほんとうのバカというのは、すべてを要領よくこなして、何ひとつ本物に行き着けないヤツのことをいうと思う。
大学も要領だけではいって、大学にはいったら適当に遊びまくる。
ちょっといい大学なら、そんなヤツでも一流会社にはいれる。
で、その会社名で女の子をたぶらかしたり、オレはどこどこの会社だと、自分は何の実力もないくせに会社名だけで勝負しているようなヤツ。
(同書)「要領」のよさや、「要領」だけで世渡りのうまさを吹聴するヤツはバカである。
これが吉野のバカー条だ。
吉野は大学卒業後、代々木ゼミナールの講師になる。
しかも代ゼミきっての名物講師に、である。
偏差値が30とか40というヤツが来たって、オレはぜんぜん驚かない。
「だったら、この単語を覚えて、こういうふうに勉強してみろ。
絶対に30は偏差値が上がるから」と教えれば、実際に60や65くらいになる。
ところが、そういうふうに勉強のやり方を教えても、「それは全部やっています」という受験生かいる。
そういうヤツこそバカなのだ。
ほんとうはぜんぜんやってない。
自分ひとりで、やってると思い込んでるだけなんだ。
自分だけの小さな規準で満足しているヤツ。
これがバカ二条である。
受験勉強中に古文の魅力に惹かれた吉野は第一志望を国学院大学の国文科に決め、見事合格した。
学習院、明治、法政(すべて文学部の日文や国文)にも受かったが、吉野はあえて国学院を選んだ。
代ゼミの教師に「古文をやるなら国学院」と薦められたからだという。
たかが落ちこぼれの大学受験奮闘記ではないか、と思う人がいるかもしれないが、これはやはり大したことである。
努力の意義を説き、バカの意味を見事に解体している。
生半可なビジネス本など鎧袖一触である。
現(のはずだが)代々木ゼミナール人気ナンバーワン古文教師である吉野はさらにこのようにいっている。
これほど説得力のある言葉もない。
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